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April 11, 2012

フランキー・ヴァリとザ・フォー・シーズンズ(7)

(4/26追記:この回で推測した4トラック録音から8トラック録音への移行は、実際には8トラック録音から16トラック録音への移行と捉えるべきだったようだ。詳しくは第10回の記事を参照していただきたい)

1968年6月に発売されたフランキー・ヴァリ2枚目のソロ・アルバム[14]([ ]の番号は例によって第3回のリスト参照)は、フォー・シーズンズを含めて初のステレオ盤のみでのリリースとなった。これは、このアルバムの制作途中で4トラック録音から8トラック録音へと切り替わった(と思われる)のと無関係ではないだろう。

エース盤CDに掲載されたディスコグラフィーなどを参考に耳で判断した限りでは、ヴァリの「I Make A Fool Of Myself(内気な恋心)」/「September Rain (Here Comes The Rain)」(Philips 40484)(1967年6月頃録音、8月10日発売、A面はオリジナル・アルバム未収録、B面は後述する別ヴァージョンが[14]に収録)、続くフォー・シーズンズの「Watch The Flowers Grow」/「Raven」(40490)(9月録音、10月9日発売、共にオリジナル・アルバム未収録)までが4トラック録音で、1967年秋録音としか書かれていないヴァリの「Donnybrook」(11月に[13]収録の「My Funny Valentine」とのカップリング、40500の番号でリリース予定だったが、米国ではアセテート盤が作られただけで終わり、カナダのみでリリースされたらしい。後に[14]に収録)以降、「To Give (The Reason I Live)」/「Watch Where You Walk」(40510)(11月頃録音、12月6日発売、共に[14]に収録)、グループの「Will You Love Me Tomorrow」(40523)(12月録音、1968年2月8日発売、オリジナル・アルバム未収録、カップリングは[12]収録曲)と続くところから8トラック録音に移行したと思われる。残りの[14]収録曲は1968年冬から6月にかけて録音され、合間の4月にはフォー・シーズンズの「Saturday's Father」(40542)(6月3日発売、後に[15]に収録)も録音されている。

ヴィー・ジェイでの初録音「Sherry」(ニューヨークのMirasound Studioでの1962年4月頃の録音)以来(いや、恐らくはそれ以前の1961年11月にBell Sound Studioで録音された「Bermuda」「Spanish Lace」から)長く続いてきた彼らの4トラック録音では、ステレオ・ヴァージョンは概ね、左チャンネルにリズム・セクションなど、センターにリード・ヴォーカル、右チャンネルにコーラスや重ね録りされた楽器などが配置されるという形だった。だから、録音にもよるが、モノラルで聴く方が自然な場合が多い。それが8トラック録音になると、パノラマ的なステレオ・イメージが自然に広がるようになる。

もっとも、彼らのみならず、8トラック録音に切り替わっていった時点でも、欧米ではシングルは基本的にモノラルのみでリリースされていた。これはAMラジオでのエアプレイ、ジュークボックスでの再生、LPを買えない若年層や低所得層でもポータブルのプレイヤーなどで聴ける、などさまざまな理由があっただろう。レーベルによって多少の差はあるが、シングル盤がステレオ化されていくのはだいたい1970年前後からである(もちろん日本では事情が異なり、1960年代からステレオ・マスターが存在するものは基本的にステレオでリリースされた)。

いずれにしても4トラック録音の時代、モノラル・マスターの制作は必須だったが、トラック数の限界から、最終的にモノラルにミックスダウンする際に最後のダビングを同時に行なう場合があり、この場合ミックス前のマルチトラック・マスターには、その最後に加えられた音は存在しないことになる。

例えば、1967年に録音されたザ・ゾンビーズの傑作"ODESSEY & ORACLE"に収録されている「This Will Be Our Year」の場合は、最後のモノラル・ミックスの際にブラス・セクションの音が加えられ、ステレオ盤LPにはそのモノラル・マスターを電気的に処理した擬似ステレオで収められた(大変なプレミア付きのオリジナル盤を確認したわけではない)。1997年のCD4枚組"ZOMBIE HEAVEN"には、オリジナルのモノラル・ヴァージョンと未発表だったブラス抜きのリアル・ステレオ・ヴァージョンとが収められ、ブックレットの解説でそのあたりの詳しい事情が明らかにされていた。

先に挙げたフランキー・ヴァリの「September Rain (Here Comes The Rain)」も似たようなケースで、シングル(モノラル)ではイントロとコーラス部分にヴァリ自身によるハーモニー・ヴォーカルが聴けるが、アルバム[14](ステレオ)ではカットされていた。いや、正しくはステレオ・ヴァージョンは、このハモリを付ける前の状態でのミックスのはずだ。

この貴重なモノラル・シングル・ヴァージョンは1990年にライノがリリースしたFRANKIE VALLI & THE 4 SEASONS "RARITIES, VOL. 2" (Rhino R2 70974)で聴けるが、スティーヴ・コランジャン氏はライナーで、ハーモニー・ヴォーカルの欠如を残念がっていた。

そのほか、ザ・フォー・シーズンズおよびフランキー・ヴァリの4トラック録音の中にはリアル・ステレオ・ヴァージョンが存在していなかった曲がいくつかあり、ステレオ盤LPには擬似ステレオもしくはモノラルで収められた(私はLPはモノラル盤で揃えたので、現物は未確認だが、“ステレオ”と銘打ってある以上ほとんどが前者だろう)。それらはエース盤CDにはモノラルで収録されているが、他の復刻CDも同様のはずだ。そして実は、それらの中でも重要なシングル曲のステレオ化が試みられたことがあったのだ。

1968年12月、[14]に続くステレオ盤のみのリリースとして、ヴィー・ジェイ時代以来のザ・フォー・シーズンズのキャリアを集大成した2枚組ベスト・アルバム"EDIZIONE D'ORO (GOLD EDITION)" (Philips PHS 2-6501)が登場した。
初回盤はこんな感じのキラキラした豪華なジャケットで、私のにはもう付いていなかったが1969年度のカレンダーを兼ねた両面刷りポスター付だった。
Oro1

1975年の復活以前では最後にビルボード・シングル・チャートのベスト30入りを果たした「Will You Love Me Tomorrow」(最高24位。前述の通りグループ初の8トラック録音、のはず)まで、B面曲の一部を含むシングル曲全29曲を収録。うち24曲がビルボードで30位以内、13曲が10位以内に入り、4曲が第1位を獲得している。ヴァリのソロは含まれないが、変名のザ・ワンダー・フー?(The Wonder Who?)名義で発表され12位を記録した「Don't Think Twice」(ボブ・ディラン「くよくよするなよ」のカヴァー。別名義のまま[09]にも収録)を含んでいる。
下の写真はゲートフォールド・ジャケットの内側。
Oro2

メンバーがツアー中で不在のため、単独でこのシングル・コレクションの編集にあたったプロデューサーのボブ・クルーは、それまでモノラル・マスターしか存在していなかった曲にもステレオ・ミックスを施そうとしたのである。

収録されたシングル曲で該当するのは次の5曲。
Ain't That A Shame(悪いのはあなた) 1963年2月録音、[04]収録
Dawn (Go Away)(悲しき朝やけ) 1963年11月20日録音、[06]収録
Ronnie 1964年2月録音、[07]収録
Girl Come Running 1965年4月録音、オリジナル・アルバム未収録
Let's Hang On 1965年8月録音、オリジナル・アルバム未収録

このうち、ステレオ化することで「September Rain (Here Comes The Rain)」のような形で音が欠けてしまったのは、実は「Ain't That A Shame」1曲だけで、ニック・マッシの低音ヴォーカル・パートとエンディング前のヴァリのハイトーン・ヴォイスが消えている。

「Dawn (Go Away)」と「Let's Hang On」は、いずれもスローな導入部から一転してアップテンポな本編へとなだれ込む曲だが、それぞれ導入部がカットされ、「Dawn (Go Away)」ではその本編の頭に、オリジナルになかったコーラスが付け加えられている。そして「Girl Come Running」もまた、冒頭にコーラスが加えられた別ヴァージョンになっている。これはどういうことなのだろうか。

一方、もともとステレオ・ヴァージョンが存在していた「Big Man In Town」にもヴォーカルに深いリバーブが掛けられるなど、ちょっとしたヴァージョン違いがいくつか生まれている。ただし、どの曲にどのように手が加えられたか、盤には一切表記がない。

「Ronnie」だけはステレオ化ができず、擬似ステレオでの収録となっている。ジャケットの曲目一覧の下には†Electronically Re-recorded to Simulate Stereoの表記があるが、この†印を「Ronnie」に付けるはずが、誤って「Dawn (Go Away)」に付いてしまっているのはご愛嬌というべきか。

フィリップスによるマルチトラックのマスター・テープの管理はかなりずさんだったようで、一部が既に紛失していることがこの時発覚したとのことだが、この曲などがそうだったのだろうか。いずれにしても、マルチトラックのマスターまで遡って「決定盤」に仕上げようとしたボブ・クルーの目論見は完全にではないにせよ外れ、そのことでメンバーのフィリップスに対する不信感が生じたのではないか。

経緯についての詳しい資料がまだ見つかっていないが、またもやフォー・シーズンズは、今度はフィリップスに対し訴訟を起こしていたようで、1973年にはフィリップスのすべてのマスターテープの権利を獲得することになるのだが、その話は次回以降に。

1990年代、ライノやエースのCDのマスタリングを担当したエンジニアのビル・イングロットは、ポリグラムの保管庫を何度も確認したが、マルチトラック・マスターは存在していないか、少なくとも見つけることができなかったことを明らかにしている。そしてフランキー・ヴァリやボブ・ゴーディオの手元にもそれらは残されていないのだった。

(続く)

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Comments

鳩サブローさん、こんばんは。
先ほどはブログへのコメントどうもありがとうございました。

実は僕もこの記事にコメントしようと思っていたところでした。
ようやく"EDIZIONE D'ORO (GOLD EDITION)"を手に入れました。
但し、米盤でなく英盤です。選曲は全く同じで、音源も同じようです。

何曲かは、聴きなれたバージョンよりもテンポが微妙に遅いですね。
「Rag doll」のステレオミックスはたぶん初めて聴きました。こんなのあったんですね。

>「Dawn (Go Away)」と「Let's Hang On」は、いずれもスローな導入部から一転してアップテンポな本編へとなだれ込む曲だが、それぞれ導入部がカットされ、「Dawn (Go Away)」ではその本編の頭に、オリジナルになかったコーラスが付け加えられている。そして「Girl Come Running」もまた、冒頭にコーラスが加えられた別ヴァージョンになっている。これはどういうことなのだろうか。

そう言えば、前に別の記事の回にコメントしましたが、「Dawn (Go Away)」は、録音時のまま=つまりマルチトラックテープのアレンジのままなのが、ここに収録されたものだと思っていました。その後編集を加えて、発表バージョンではイントロ部分が別のイントロに置き換えられたのかなと。

同じく、「Girl Come Running」ではイントロをカットしたものが最終編集バージョンで、ここに収録されたのは未編集版。「Let's Hang On」は「Dawn (Go Away)」に似て、イントロを追加。

という風に考えていました。
まぁ、あくまで音を聴いての推測ですが。

ちなみに、このアルバムからの音源を流用した2枚組編集盤「Four seasons story」の国内盤LPでは、全ての曲がこの音源だと言う訳でなく、一部はオリジナルのステレオ音源を使用しています。米国盤LPは持っていないので、それが日本側での判断なのか、米国盤も同じなのかどうかはわかりません。

Posted by: JD | June 18, 2012 at 02:16 AM

JDさん、コメントありがとうございます。

> 何曲かは、聴きなれたバージョンよりもテンポが微妙に遅いですね。

あっ、それは気付きませんでした。確認しておきます。

やはり、「Dawn (Go Away)」「Let's Hang On!」のスロー・イントロは、最終モノラル・ミックスの時点で加えられたものかな、と今は考えています。

> ちなみに、このアルバムからの音源を流用した2枚組編集盤「Four seasons story」の国内盤LPでは、全ての曲がこの音源だと言う訳でなく、一部はオリジナルのステレオ音源を使用しています。米国盤LPは持っていないので、それが日本側での判断なのか、米国盤も同じなのかどうかはわかりません。

そうか、『Story』は未聴ですが、まったく同じ(曲目の変更を除き)ではないんですね。

日本側(当時の東芝EMI)の独自編集はちょっと考えられません。当時フォー・シーズンズ側からプライベート・ストックに提供されたもの以外のマスターは入手できるはずもなかったでしょうから。

Posted by: さいとう(鳩サブロー) | June 18, 2012 at 08:49 PM

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