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November 19, 2011

ビーチ・ボーイズ"The SMiLE Sessions"を聴く

Smile
また4ヶ月ぶりの更新となってしまった。季刊という感じか? しかも今回もテーマはタンゴではないし。まぁ、よろしければお付き合いください。

各方面で話題のビーチ・ボーイズ"The SMiLE Sessions"(邦題の『スマイル』はどうかなぁ。『…セッションズ』とすべきではなかったか?)。今回のリリースの詳細についてはメーカーのオフィシャル・サイト へのリンクを貼っておこう。また、『スマイル』および構成する楽曲群についてはこちらのサイトが詳しい。1枚もののスタンダード盤、2枚組デラックス・エディションもあるが、ここはやはりボックスでしょう。
立体構造の豪華ケースにCD5枚、LP2枚、7インチシングル2枚、特大ブックレット、ポスターが収められた今回のボックス、完全限定の国内盤『スマイル コレクターズ・ボックス』(輸入盤に日本語ブックレットを付けたもの)は20,000円と高価でありながら早々と予約受付が終了。予算の関係もあり最初輸入盤をアマゾンに予約したが、タワーレコードオンラインの方がキャンペーン価格で安いことに気付き(国内盤の半値近かった!)オーダーを切り替え。ショップによって入荷のタイミングにバラツキがあったようだが、11月4日に無事到着。
専用の梱包・発送用段ボールに収められているのもちょっとして驚きだったが、実際に手に取ってみて、手の込んだ造りに感激(細部の詰めの甘さは許そう)。それから2週間あまり、『スマイリー・スマイル』など関連アルバムの聴き直しも含め、ほとんどビーチ・ボーイズにかかりきりの状態が続いている。

1967年に発売予定だった『スマイル』は、結局リーダーのブライアン・ウィルソンが完成できずに発売中止となり、長い年月が経過した。自信作が完成できなかったことへの失意や、周囲との軋轢、ドラッグの過剰使用の影響などから精神障害(極度の鬱状態というか…)となったブライアンは、世捨て人のように引き篭もりながらも、ビーチ・ボーイズのメンバーとしてかろうじて役割をこなしたりこなせなかったりしながら生き延びてきた(不幸なことに、その間にメンバーだった弟のデニスが事故で、カールが病で先に逝ってしまった)。長いリハビリの末にようやく健康を回復すると(かつての美声は失われてしまい、完全な状態ではないが)、ビーチ・ボーイズと別れ、本格的なソロ活動を開始。封印していた『スマイル』の呪縛からも徐々に解き放たれたブライアンは、音楽面での秘書的存在であるダリアン・サハナジャや制作時の作詞者ヴァン・ダイク・パークスらの協力を得て、2004年2月のロンドン公演でついに「完成版」の初演に漕ぎ着けた。3部構成となった全体の曲順は1966~67年当時の全音源をダリアンがパソコンに取り込んだ上で、ブライアンとダリアンで決定したもの。未完成だった歌詞や歌メロは新たに書き下ろされ、一部の曲名が変更された。そして公演の成功を受けて、そのままの内容をスタジオでレコーディングしたのがブライアン・ウィルソン版『スマイル』だ。

ボックスのCD 1は、スタンダード盤および2枚組デラックス・エディションの1枚目と同じ内容で、ブライアン版『スマイル』の内容に準じた本編19曲(モノラル)+ボーナス・トラックという構成。2枚組LPの方はSide 1からSide 3に本編19曲を収録、Side 4のボーナス・トラックはCDとは被らないステレオ・ヴァージョンを収録。アナログを聴ける環境にない人たちからは「アナログ盤いらない」との意見も多かったようだが、今回の同梱は十分に意味があると思う。アナログ時代に録音された音源の、初めてのまとまった形でのオフィシャル・リリースであり(各種編集盤CDでいくつかのトラックが小出しにされてきたのとは意味が違う)、当時使われる予定だったジャケット・デザインも忠実に再現されているのだから。Side 1~3および7インチを聴く時はモノラル・カートリッジ、Side 4を聴く時はステレオ・カートリッジ、と取り替えるのも煩わしいなんて言ったらバチが当たるだろう。アナログを聴ける環境にある人で、ボックス(国内盤には既にプレミアが付き始めているが、輸入盤はアマゾンでは入手可能)には手が出ないがどのフォーマットがいいだろうか、と迷っている方には、輸入盤のみだが単体でも発売されているアナログ盤LP2枚組をお勧めしておこう。

本編の曲順について、もし当時発表されていれば、こうはならなかっただろう、という意見はもっともだ。全米No.1ヒットの「グッド・ヴァイブレーション」は、当然LPのSide 1かSide 2のトップに置かれただろう。だが、この曲のみ作詞はヴァン・ダイク・パークスではなくマイク・ラヴであることを考えると(ブライアン版『スマイル』では、『ペット・サウンズ』の作詞者トニー・アッシャーによる初期ヴァージョンの歌詞も使われた)、最後に置かれるのも意味があることだと思う。
トータルで48分ちょっと、LP3面分という全体の長さについては、当時であればどう対処しただろうか。考えられるのは次の3つ。

(1) 今回のように2枚組として、3面に分け、Side 4は溝を刻まない(当時はボーナス・トラックという概念はないだろうから)。
(2) カッティング・レベルを落としてLP1枚、2面に詰め込む。
(3) いずれかの曲目、あるいは曲の中のパートをカットして40分程度まで短くする。

(1)は意外に思われるかも知れないが過去に例がある。私の知る限り一番古いのはジョニー・ウィンター、1969年の"Second Winter"(日本盤は1枚に詰め込み)。70年代にはラサーン・ローランド・カークの"The Case of the 3 Sided Dream in Audio Color"、80年代にはジョー・ジャクソンの"Big World"なんてのもあった。ただし1967年当時のキャピトルがこのような対応をしたとは考えにくいし、作ってしまったジャケットも1枚用だったはずだ。
(2)は70年代のトッド・ラングレンあたりに多かったような気がする(片面25分とか)。クラシックにもありそう。これも当時のキャピトルに対応できたかどうか。
ということで、現実的には(3)かな。LP時代には収録時間の関係で途中でフェイド・アウトしていた曲が、CDに編集されて初めてフル・ヴァージョンで聴けるようになったチャールズ・ミンガスの"Mingus Ah Um"や"Mingus Dynasty"のような例もある。

ボックスのCD 2からCD 5には、『スマイル』セッション(と前後の関連セッション)で残された膨大な録音が細かくまとめられている。これらはあくまでも資料的なもので、そうそう聴くことはないだろうとタカを括っていたが、スタジオでの綿密かつパラノイアックな作業の様子を垣間見れる実に貴重なドキュメントになっていて、繰り返し興味深く聴いている。この4枚のCDと、ブックレットに掲載された詳細なセッショングラフィーこそが、このボックスの肝といえるだろう。CDの長時間収録の利点を生かしつつ、本編は当時の空気をよりよく伝えるアナログで収録(でもCDもあり)という点が、価値を高めている。

もちろん重要なのは、作品自体の内容だ。才気あふれまくるブライアンが書いたばかりの生々しい作品を、今では再現不可能なビーチ・ボーイズのハーモニーと、レッキング・クルー(ドラムスのハル・ブレインら腕利きセッションマンたち)を中心とした演奏で、しかも高音質で聴けるのだから。歌詞が未完成だった「ホリデイズ」など、カラオケ然としていなくて、インストゥルメンタル・ナンバーとして普通に聴けるのも楽しい。未完成であるが故の物足りなさ、というのは私の場合は感じなかった。さりとてブライアン版『スマイル』の価値が減じるということもない。あのステージ(2005年の来日公演は観れなかったが)とアルバムがなければ、今回の企画も成立しなかったはずだし。どちらを選ぶかと言われれば、やはりビーチ・ボーイズ版となるが。

あとは余談。これもお馴染みのことだが、『スマイル』は過去に様々なブートレッグ(海賊盤)でも音源が小出しにされていた。私は1985年に出た通算2枚目のブートレッグLP、Second Editionというのを当時買った。今回久々に引っ張り出し、聴き比べてみたところ、「ヴェガ・テーブルズ(ヴェジタブルズ)」が、ピアノとベースによる印象的なバッキングのヴァージョンで、それが今回のボックスではどこにも見当たらない。で、いろいろ調べて見たら、Second Edition収録のヴァージョンはビーチ・ボーイズではなく、ジャン&ディーンのディーン・トーレンスがザ・ラーフィング・グレイヴィー(The Laughing Gravy)名義で1967年にリリースしたシングル(ブライアンが共同プロデュース)の音源であることが判明。よく見るとライナーにも確かにそう書いてあった。で、この録音は日本のM&Mが1993年にリリースした『Still I Dream of You - Rare Works of Brian Wilson』に入っているのをちゃんと持っていた。さらにこの録音にコーラスをオーヴァーダビングしたジャン&ディーン名義のヴァージョンも、手持ちの"Jan & Dean Anthology Album"に入っていた。全然気付いていなかったわけで、聴き込みの浅さを痛感。

1985年当時は(最近まで?)、音源と曲名の不一致もあったようで、Second Editionで"Barnyard"と題されているのは「マイ・オンリー・サンシャイン(パート2)」、"Tones"となっているのは「ホリデイズ」だった。で、ライナーには「ホリデイズ」のテープは見つかっていない、とか書いてあって。そんな混乱ともついにおさらばだ。よかったね。

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